無痛分娩管理指針


分娩入院中には多業種の専門スタッフ(医師、助産師、看護師、看護助手、医療事務員、調理師、栄養士、製菓士、清掃員など)が連携して安全で安心できる医療を提供しています。

あきせウィメンズクリニックの標準的無痛分娩管理指針

ローリスク妊婦を対象とした標準的無痛分娩管理法を医師、助産師、看護師の動きを中心に時系列で紹介いたします。

外来での患者様への説明

・外来担当医師より無痛分娩説明文および同意書にそって、無痛分娩の方法、予想されるメリット、副作用、合併症を説明する

・麻酔開始時に母児共に最も合併症が多く発生しますので夜間(17時から翌9時)に無痛分娩を開始することはできません。無痛分娩進行中の方は17時以降も継続して行います。に特別な理由がない計画分娩は行わないことを説明する

・誘発分娩、帝王切開、輸血に関する説明も適宜おこなう

・助産師外来担当助産師より多種多様なバースプランの一つとして無痛分娩が選択できることを示し、産婦が主体的に意思決定できるように支援する

・妊娠中や分娩中の過ごし方を説明する

・妊娠36週までに無痛分娩同意書に署名し持参してもらう

入院時

・助産師は、母児の情報収集(既往歴,家族歴,服用薬,アレルギー等,妊娠経過)とリスクの評価を行う

・最終的な無痛分娩施行に関する意思を確認し、産婦の疑問や不安の解消に努める

・同意書の有無、署名の確認を行う

・分娩中の管理(点滴,内服薬,モニター,注意点等)について医師から指示を受ける

・胎児心拍数陣痛図(CTG)を装着し、児の状態の観察、陣痛の程度を観察する。異常があれば医師に連絡する

分娩を担当する医師

学会の定める産婦人科専門医で、日常的に分娩に携わっているもので、かつ十分な産科麻酔、特に無痛分娩に関する技能、知識が豊富な医師のみが担当します

無痛分娩を行う場所

感染予防の点と、酸素投与や人工呼吸など救急蘇生処置ができるLDRまたは手術室で行います

無痛分娩の管理

・助産師は、母体生体情報モニター、CTGを装着し母児が健康であることを確認する

・産婦の体温(2時間毎)、血圧(1時間毎)、心拍数(2時間毎)、SpO2(2時間毎)、呼吸数(適宜)等確認し、電子カルテ内のパルトグラムに記録する

・異常出現時、または異常が疑われる場合は施設に常駐する分娩担当産科医師に報告する

・陣痛間隔や強さ、児の健康と分娩の進行度を確認して末梢静脈ルートを確保し輸液を開始する

・陣痛の痛みの程度をVASで評価し、産婦に麻酔開始の希望を確認する

・医師は妊娠後期の血液止血凝固能を含む血液検査、尿検査をチェックします

・既往歴、家族歴、服用薬、アレルギー、身体所見(気道、脊柱、神経障害の有無を含む)さらに妊娠経過、胎児合併症、推定児体重を確認します

・その他、産婦の分娩に関する要望を確認します

硬膜外カテーテルの留置

・助産師または看護師は血圧計とSpO2モニターを装着し、血圧、心拍数、SpO2、呼吸数の変動やCTGの異常、陣痛の程度を確認する (自動血圧計測は2.5分おきに設定)

・産婦に硬膜外麻酔導入の体勢をとる介助を行う

・産婦のカテーテル挿入への恐怖や体位保持への苦痛軽減のため,適宜声掛けを行いスムーズに麻酔導入が終了するよう援助する

・穿刺後、カテーテル刺入部位が確認でき、羊水や血液で汚染されないように、ドレッシング材で刺入部を覆う

・体動でカテーテルが抜けないようにテープを背中にしっかり固定する

・医師は、硬膜外鎮痛施行前にアルコール製剤による手指消毒を行なった上で、清潔な手袋を装着してから麻酔(鎮痛)手技を行う

・穿刺部の皮膚消毒は、イソジンまたはイソジンフィールズを用いて行う

・側臥位または座位にてL3/4より穿刺を行う。 L3/4で穿刺が困難なときにはL4/5を選択する

・正中アプローチを第一選択とする

・穿刺部位、硬膜外腔までの距離、脊髄くも膜下穿刺の有無、硬膜外カテーテル挿入長、吸引テストの結果、放散痛の有無(ある場合にはその部位)、その他電子カルテに記載する

鎮痛薬投与

痛みの程度や分娩進行状況によって薬剤の種類や容量は変更する場合があります 当院における標準法としては、

 試験投与:1%キシロカイン3ml

 麻酔導入時の鎮痛:0.2%アナペイン20ml+フェンタニル100μgを3-5mlづつ十分な鎮痛が得られるまで5-10分毎に分割投与します

 鎮痛の維持:0.08%アナペイン+フェンタニル2μg/mlをシリンジポンプを利用して10ml/h精密持続投与します、適宜増減します

麻酔導入後の管理

・医師または助産師、看護師は、自動血圧計と連続パルスオキシメータを装着し、連続的に脈拍数、SpO2を監視する

・冷覚消失・低下域の評価、体位交換、Bromageスケールの評価、体温測定、導尿を行う

・産婦は歩行せず、ベッド上で過ごす。

・無痛分娩施行中は絶食です。水分は水、スポーツ飲料、OS1に限り接種可能です。

硬膜外無痛分娩開始後のバイタルチェックは、0〜15分まで2.5分間隔、15~30分は5分間隔、30〜60分は15分間隔とする。以後の測定間隔は60分。母児の状態によって適宜短縮する 低血圧(収縮期血圧が通常の20%以下または80mmHg以下)を認めたときには、下肢挙上と輸液急速負荷(300~500mL)を行う。医師の指示で昇圧剤投与する場合がある

・助産師は、CTG異常がないか監視をする

・VASの評価(十分な鎮痛が得られているか)をおこなう

・助産師は定期的に産婦の体位を変換する。導尿する

・弾性ストッキングが正しく着用されているか観察する

・DVTリスクアセスメント評価と防止策をおこなう

分娩時の管理とケア

・助産師は看護師と協力して、産婦の移乗介助、バイタルサインの確認、インファントウォーマーが正常動作することの確認を行う

・助産師は、全ての分娩で努責・呼吸法の誘導をおこなう。無痛分娩の場合は麻酔作用により有効な努責が加えられない可能性がある。産婦を励ましながら努責の方向を誘導する

・吸引分娩が必要かどうかを母体の疲労、分娩の進行、児の健康状態から総合的に判断する。または医師に相談する。

・通常の(無痛分娩以外の)分娩と同様に、適切に胎児娩出の介助を行い、新生児蘇生の必要の有無を判断する

・蘇生が必要な場合はNCPRアルゴリズムに沿って医師を中心としたチームでおこなう

・事前(バースプランで)に希望した産婦にカンガルーケアを実施させる

・医師は分娩進行に異常がある場合、それを早期に発見し対策を講じる。

・必要であれば会陰切開、吸引分娩を施行する

・急速遂娩(緊急時直ちに児を娩出させること)、帝王切開への切り替えの判断を行う

・産前産後の全身管理を行う。特に産後出血が多い場合は、輸液、輸血、血液検査等速やかにおこなう。

・産道裂傷や会陰裂傷または切開部の縫合が終われば、硬膜外カテーテルを抜去する

産後

・助産師は、産後経過を観察する

・異常出血の有無、子宮硬度、膝立保持可否、左右下肢知覚鈍麻の有無、硬膜外麻酔刺入部の観察などを行う

・感覚・運動神経遮断が麻酔終了後6時間で完全に回復していない場合は産婦を歩行させず、医師に相談する

・歩行開始時にはバイタルサインを確認し、転倒防止のため付き添う

・産後痛に対応し、医師に鎮痛薬の処方を依頼する

出産後は他の(無痛分娩以外の)産褥婦と同様のケアをおこないます

可能な限り、入院中に出産に立ち会った助産師がバースレビューを行います。出産体験を十分に傾聴し受け止めます。